建設業の外国人労働者問題とは?受け入れの課題・対策・特定技能制度を徹底解説

建設業界では、深刻な人手不足が続くなか、外国人労働者の受け入れ拡大が大きな課題となっています。
この記事では、建設業界における外国人労働者問題の現状と課題、受け入れ企業側に求められる対策や工夫について詳しく解説します。
目次
建設業界が直面する人手不足

建設業界では、人手不足が慢性的な課題です。
社会インフラの維持・整備に対する需要は高まる一方で、現場を支える労働力の確保が年々難しくなっています。
以下では、建設業界における労働力不足の背景と若者の離職率の傾向について解説します。
労働力不足が深刻化する背景
少子高齢化の進行により、若い労働者の絶対数そのものが減少し、建設業界に入職する人材も限られています。
建設業界では、労働力不足が年々深刻化しており、主な要因は、若年層の減少と業界全体の高齢化です。
また、建設業は労働環境が厳しいイメージを持たれやすく、若年層から敬遠される傾向も続いているのが現状です。
このため、国内のみで必要な労働力を確保することが難しくなり、外国人労働者の受け入れを検討する企業が増加しています。
建設業は若者の離職率が高い傾向にある

厚生労働省のデータによれば、建設業における新卒入職者の3年以内離職率は、大卒者で約3割、高卒者で約4割から5割に達しており、製造業と比較しても高い水準となっています。
その背景には、長時間労働や休日取得率の低さといった厳しい労働環境に加え、将来のキャリアプランが描きにくいことへの不安が影響しています。
具体的な要因 | 詳細説明 |
長時間労働・休日取得の少なさ | ・全産業平均より出勤日数・労働時間が長い ・心身への負担が大きい |
体力的負担の大きさ | ・炎天下や寒冷下での現場作業が中心 ・若年層でも続けにくい |
将来へのキャリア不安 | ・明確なスキルアップ制度や昇進ルートが描きにくい |
賃金への不満 | ・労働負荷に対して給与水準が十分でない |
3K(きつい・汚い・危険)のイメージ | ・業界全体にネガティブなイメージが根強い |
実際、国土交通省が公表した建設産業政策2017+10では、建設業における若年層(29歳以下)の新規入職者数は1997年の約34万人から2016年には約13万人へと約60%減少したことが報告されています。こうした状況から、若手人材の確保自体が年々難しくなっているのが現状です。
建設業における外国人雇用の問題

人手不足が深刻化する中で、建設業界においても外国人労働者の受け入れが広がっています。
しかし、受け入れに伴う課題も多く、安定した雇用の実現に向けた取り組みが求められています。
以下では、外国人労働者に関する課題について解説します。
離職率の高さ
離職率の問題視されているのが、労働条件の説明不足によるミスマッチです。
外国人労働者は、日本での就労経験が乏しい場合が多く、採用段階で提示された条件と実際の現場環境に大きなギャップを感じるケースが少なくありません。
作業内容や労働時間、休日取得の実態について十分な説明がなされず、入職後に過酷な環境に直面することで早期離職につながる事例が見られます。
日本人労働者以上に、外国人労働者は事前の情報を頼りに職場を選択するため、契約条件と実態に乖離があると、不信感から離職を選ぶ傾向が強まります。
言語・文化の違いによるコミュニケーション問題
日本語による業務指示を十分に理解できないまま現場に立つと、作業ミスや安全管理上のリスクを引き起こす要因となります。
文化的背景の違いから職場の慣習や情報を共有できず、トラブルに発展する事例も見受けられます。
業務に必要な日本語教育や、安全衛生に関する研修、生活面を含めたサポート体制の整備が大切です。
しかし、現実には十分な支援を行えていない企業も多く、採用した外国人労働者が短期間で離職してしまう原因となっています。
在留資格や手続きの複雑さ
外国人労働者が日本で就労するためには、適切な在留資格を取得し、その資格に応じた業務に従事する必要があります。
しかし、制度自体が細分化されているため、実務レベルでの理解が追いついていない企業も少なくありません。
特に建設分野では、複数の在留資格が関係しており、それぞれに異なる就労範囲・条件・期間・更新要件などが設定されています。(参考:法務省)
このため、申請手続きや更新管理に相当な労力がかかり、管理体制が不十分な場合には不法就労と見なされるリスクも生じます。
受け入れ企業側ができる対策と工夫

外国人労働者を安定的に受け入れるためには、採用するだけでなく、定着を見据えた取り組みが重要です。
建設業界特有の環境を踏まえたうえで、労働者の不安や負担を軽減し、安心して働ける職場づくりを進める必要があります。
以下では、企業側ができる対策と工夫について解説します。
業務内容・条件の明文化と事前説明
建設業界では、現場ごとに業務内容が変動することも多く、事前の説明が不十分な場合、入職後に認識のズレが生じやすくなります。
業務内容や就業時間、賃金、休日、昇給制度などについて、書面で明示したうえで、口頭でも詳細に説明することが求められます。
採用段階で双方の認識を一致させることで、安心して働ける環境を整え、早期離職を防ぐことが可能です。
通訳ツールや画像でのマニュアル整備
建設現場では、安全確保のために即時かつ正確な指示伝達が求められますが、言語の壁によって認識にズレが生じるリスクがあります。
この問題を軽減する手段として、翻訳アプリや通訳機能付きの端末を現場に導入し、日常的なコミュニケーションをサポートする方法が有効です。
作業手順や安全ルールを言語に依存せずに伝えるため、写真やイラストを多用したビジュアルマニュアルを作成することも推奨されます。
視覚情報を中心に伝えることで、現場経験が浅い外国人労働者にも直感的に理解しやすくなり、ミスや事故の防止につながります。
CCUS(建設キャリアアップシステム)の活用
外国人労働者の受け入れ体制を強化するうえで、CCUS(建設キャリアアップシステム)の活用は非常に有効です。
CCUSとは
技能者一人ひとりの就業履歴や保有資格をデータベースで一元管理する仕組みであり、適切な人材評価や処遇改善を支援すること
外国人労働者にとっても、自身のスキルや経験が客観的に記録されることは、働く意欲の向上につながります。
受け入れ企業側にとっても、技能レベルに応じた適切な配置やキャリア支援が可能です。
外国人労働者の場合は、制度上の立場が不安定になりがちなため、客観的な情報に基づいて評価できる環境整備が重要です。
社内教育・交流イベントによる相互理解促進
外国人労働者の定着を図るには、業務上の教育だけでなく、相互理解を深めるための社内施策も欠かせません。
建設現場ではチームワークが不可欠であり、言語や文化の違いを越えた信頼関係を築くことが重要です。
現場ルールや安全管理に関する社内教育を体系的に行うと同時に、文化交流やコミュニケーション促進を目的としたイベントを開催することが効果的です。
単なる労働力としてではなく、長期的にチームの一員として育成していく意識を持つことが、結果的に離職率の低下と業務の安定化につながります。
外国人労働者受け入れの拡大とその仕組み

深刻化する人手不足への対応策として、外国人労働者の受け入れが進められています。
特に一定の技能を有する即戦力人材を対象とした制度が整備され、国内労働力の補完を目的とした取り組みが拡大しています。
以下では、外国人労働者受け入れの要件について解説します。
特定技能制度の概要
建設業界における外国人労働者受け入れの中枢となっているのが、特定技能制度です。
特定技能制度は、深刻な人手不足を背景に、即戦力となる外国人材を受け入れることを目的として創設されました。
建設業をはじめとする特定の分野において、一定の技能と日本語能力を有する外国人に対し、在留資格「特定技能1号」が付与されます。
この資格により、通算5年間の就労が認められ、特定分野で必要とされる作業に従事することが可能です。
ただし、受け入れ企業には、外国人労働者への生活支援や労働条件の適正確保など、一定の責任が課されています。(参考資料:経済産業省)
技能実習制度との違い
特定技能制度と技能実習制度は、外国人労働者の受け入れ枠組みとして並び立っていますが、その目的と運用には大きな違いがあります。
技能実習制度は本来、開発途上国への技術移転を目的として設計された制度であり、建設業を含む各分野で実務を通じて技能を習得してもらうことを重視しています。
労働力確保を直接の目的とすることは想定されておらず、制度上も実習計画に基づく運用が求められている点が特徴です。
一方、特定技能制度は、日本国内の人手不足を解消することを主目的として創設されており、即戦力としての労働力確保を前提にしています。
建設業で受け入れ可能な分野と業務内容
特定技能制度において、建設業で受け入れが認められている分野と業務内容は限定されています。対象となるのは、以下の13分野です。
対象分野 | 業務内容 |
型枠施工 | コンクリート打設用の型枠設置・解体作業 |
左官 | モルタルや漆喰を使った壁面仕上げ |
コンクリート圧送 | ポンプ車を使ったコンクリート圧送作業 |
鉄筋施工 | 鉄筋の組立・固定作業 |
内装仕上げ | クロス貼りや床仕上げ工事 |
建築大工 | 木造建築物の建築作業 |
建築板金 | 通信設備やネットワーク配線工事 |
とび | 足場の組み立てや解体、鉄骨の組み立て |
屋根ふき | 各種屋根材の取り付け作業 |
鉄筋継手 | 給排水・ガス配管工事 |
トンネル推進工 | トンネル掘削工事 |
表装 | 掛軸、額、屏風、襖などを仕立ての修復作業 |
吹付ウレタン断熱 | 発泡ウレタンの混合・吹付け・養生など |
(参考:建築技能人材機構)
これらの分野は、いずれも専門的な技能と一定の現場経験を必要とする領域であり、慢性的な人手不足が問題視されてきました。
外国人労働者は、分野ごとに定められた技能試験に合格し、日本語能力の一定基準を満たすことで、これらの業務に従事できるようになります。
ただし、従事できる業務は資格取得時に認められた範囲に限定され、建設現場におけるすべての作業に対応できるわけではありません。
受け入れ企業は、対象分野と業務範囲を正確に把握したうえで、適切な人材配置と育成を行うことが求められます。
日本語能力・技能水準の要件
特定技能制度で外国人労働者を受け入れるためには、日本語能力と技能水準の双方で一定の要件を満たす必要があります。
日本語能力については、原則として国際交流基金日本語基礎テストまたは日本語能力試験のN4以上に相当する水準が求められます。
この水準は、日常会話がある程度でき、簡単な指示や注意事項を理解できるレベルを想定しており、現場での安全確保や円滑な作業遂行に不可欠です。
技能水準については、各分野ごとに定められた「特定技能評価試験」に合格することが基本要件となります。
(参考資料:法務省)
特定技能2号の取得を見据えた支援とは

外国人労働者の安定的な雇用を実現するためには、特定技能2号への移行を視野に入れた支援が重要です。
特定技能2号を取得することで、外国人労働者はより長期的に日本で就労・定住できる道が開かれます。
以下では、特定技能2号への移行要件について解説します。
評価試験の内容と合格率
特定技能2号への移行を目指す外国人労働者は、分野ごとに設定された高度な技能評価試験に合格しなければなりません。
特定技能1号と比べて求められる知識と技能のレベルが高く、より実務に即した実技試験と学科試験で構成されています。
建設分野では、現場での指導的立場を担えるかどうか、施工管理の知識や安全衛生に関する理解度も必要です。
なお試験は日本語で実施されるため、実技だけでなく、日本語での読み取りや記述能力も一定水準に達している必要があります。
試験準備におけるサポート方法
専門用語を含む日本語理解を深めるために、業務内で使われる言葉を意識的に教えることや、日本語学習教材を提供することが有効です。
技能面では過去問や模擬試験を活用し、実技試験の形式に慣れさせることが重要になります。
企業内での勉強会の開催や、先輩技能者による指導機会の確保も効果的な方法です。
受け入れ企業が主体的に支援することで、外国人労働者の不安を軽減し、合格への意欲を高めることにつながります。
特定技能1号から2号への移行要件
前提として、特定技能1号の在留資格を持ち、対象分野において一定期間以上の実務経験を積んでいることが求められます。
分野別に設定された特定技能2号の技能評価試験に合格することが必要です。
日本語能力試験の受験も求められる場合があり、実務に必要な日本語理解力が備わっているかも確認されます。
移行後は在留期間の更新が可能となり、家族の帯同も認められるため、外国人労働者にとっては長期的な生活基盤を築く道が開かれます。
参考資料:法務省
外国人採用におけるホームページの役割

外国人労働者を積極的に採用するにあたり、企業ホームページは重要な役割を果たします。
採用活動を成功させるためには、情報発信のあり方を見直し、外国人向けにも分かりやすく配慮された設計が求められます。
以下では、求人情報の多言語対応の重要性と、信頼性のある情報発信による採用ブランディングについて解説します。
求人情報の多言語対応の重要性
建設業において外国人労働者を採用する際は、ホームページ上の求人情報を多言語対応させることが重要です。
日本語のみで情報発信を行う場合、外国人求職者が内容を十分に理解できず、応募をためらう原因となりかねません。
実際には、仕事内容や待遇、勤務地、勤務条件など、応募前に知っておきたい情報を正確に伝えることが、信頼関係を築く第一歩となります。
特に建設業界では、就業環境や求められる技能が国ごとに異なるため、曖昧な表現を避け、明確かつ具体的に記載することが重要です。
英語はもちろん、ターゲットとする国に応じた言語展開を行うことで、より多くの優秀な人材にリーチできる可能性が高まります。
信頼性のある情報発信と採用ブランディング
外国人労働者の採用を成功させるためには、信頼性のある情報発信と採用ブランディングの構築が不可欠です。
建設業界は現場作業が中心となるため、求職者にとっては職場環境や待遇面への不安がつきまといやすい傾向があります。
そのため、ホームページでは単に求人情報を掲載するだけでなく、実際の作業風景や従業員インタビュー、キャリアステップの具体例など、企業の実態を可視化するコンテンツを発信することが求められます。
外国人労働者にとっては、労働条件や生活環境、支援体制が整っているかを事前に知ることが安心材料となります。
また、外国人採用を積極的に行っている姿勢を打ち出すことで、国籍を問わず応募しやすいイメージを形成できます。
透明性と一貫性のある情報発信を徹底することで、応募者の信頼を獲得し、結果として優秀な人材の確保と定着率向上につながります。
外国人労働者の受け入れに関する成功例と失敗例
建設業界において外国人労働者の受け入れは、人手不足対策として重要な施策の一つとなっています。
しかし、受け入れが成功しているケースと、課題に直面しているケースの両方が存在するのが現実です。
ここでは、外国人労働者受け入れにおける成功例と失敗例について詳しく解説します。
外国人労働者の受け入れに関する成功例
人手不足が深刻化するなか、外国人労働者の戦力化に成功している企業の事例が注目されています。
造船会社の因島鉄工では、全従業員約80名のうち半数が外国人労働者で構成されており、外国人材の受け入れを積極的に推進してきました。
特に、特定技能1号から2号への移行を支援した結果、同業界で全国初となる特定技能2号の在留資格を取得することに成功しました。
この企業では、日本語教室を昼休みに実施するほか、宗教や文化の違いに配慮し、国籍別にグループ分けした職場環境を整備しています。
また、生活面やメンタル面のフォロー体制も整っており、受け入れ企業の責任者は「モチベーションが大きく向上し、難しい仕事にも前向きに挑戦する姿勢が見られるようになった」と語っています。
実際に特定技能2号を取得したベトナム出身の従業員は「合格できて嬉しい。40歳、50歳になっても日本で働きたい」と語っており、家族を日本に呼べる可能性があることも、長期的な就労のモチベーションにつながっています。
外国人を中核人材として育てることで、企業の将来を担う幹部候補としての登用も視野に入れているとのことです。
このように、文化的・制度的なサポートを丁寧に行うことが、長期雇用や戦力化の鍵となっています。
(参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=rwsOmB1qYVI&t=510s)
外国人労働者の受け入れに関する失敗例

外国人労働者の受け入れに失敗した事例では、制度や運用の不備により深刻な問題が発生しています。
技能実習制度を利用して来日したベトナム人労働者の失踪や犯罪の増加が社会問題化しています。
2022年10月時点で在留するベトナム人労働者は約34万3000人に達しており、そのうち失踪者の割合が非常に高い状況です。
背景には、来日前に高額な手数料(平均65万円超)を負担させられる構造があり、ほとんどの労働者が借金を抱えて来日しています。
しかし、実際の手取りは月10万円から12万円程度と低く、返済が困難になるケースが多発しています。
仕事内容や労働条件について現地での説明と実際に大きな違いがあり、過酷な環境での労働を強いられる事例も少なくありません。
日本語の壁や情報不足により支援にアクセスできず、転職も容易ではないため、劣悪な職場環境に耐えきれず失踪に至るケースが続出しています。
2021年には日本で犯罪に関与して検挙されたベトナム人が1908人にのぼり、そのうち49.1%が窃盗、万引きが69.3%を占めるという深刻な事態となりました。
このような失敗例から、適切な情報提供と生活支援、労働環境の整備が不可欠であり、単なる労働力と捉える受け入れ方には限界があると言えるでしょう。
まとめ
建設業界における外国人労働者の受け入れは、深刻化する人手不足を補う有力な手段となっています。
しかし、言語・文化の壁への対応や労働条件の明確化、在留資格管理の徹底など、企業側に求められる取り組みは多岐にわたります。
特定技能制度の適切な活用や、長期定着に向けた支援体制の整備も不可欠です。
外国人労働者が安心して働き続けられる環境を整えることが、結果的に企業の発展と業界全体の安定につながります。
なお、当サイトでは建設業界をはじめとした企業向けに、採用活動を支援するホームページ制作も行っています。ご興味のある方はぜひお問い合わせください。
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